【登校渋りの子どもにどう向き合う?】うつ病・PTSDの急性期へ⑤

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ハチコの「しくじり」ポイント:言語化できない子どもの苦しみを無視

メンタルヘルスの概念における「うつ病」の定義は、「無気力」「身体がだるい」「疲れがとれない」「食欲がない」「眠れない」などを伴う気分の落ち込みが2週間以上続く、何かをしようとしてもできずに人間関係や社会活動に支障をきたつ状態をさします。

医学的に言えば、脳内の神経伝達物質(セロトニン・ノルアドレナリン)のバランスに変化が起きて、神経細胞同士の伝達がうまくいかなくなるのです。

息子の場合は、少しずつサインを出していた時期も含めて、すでに「うつ病」らしき状態に当てはまるようになってから2カ月ほど経過していました。

息子にとって、あの頃のハチコとの生活がどれだけ負担で苦しいものだったのか、想像するだけで今でも心がギュッと痛くなります。

自分の体調や気分の落ち込みについて明確に言語化できない子どもの「うつ病」は、大人の「うつ病」と比べても、本人もまわりの家族も見逃してしまいがちです。

1番そばにいて守ってあげなくてはいけない親自身が、ストレスの原因になっていたことで、気分の調整がしづらくなったのに、助けを求めることができなかった息子。

心の悪循環が長期にわたって続く中で、息子が限界を迎え、さらに限界を超えてしまったことが、事態を長引かせることにつながったことは間違いありません。

息子が元気になった今でも、ハチコとオットは、いつまでも消えない大きな十字架を背負いながら生きています。

夏休みまであと4日〜冷静な判断ができない

2回目のXデーによって、今まで心のどこかにあった「行き渋り」や「不登校」に対する不安が、一気に現実的なものとなりました。

明日には行けなくなるかもしれない…。
朝が来るのが怖い…。
緊張と不安で心が締め付けられるような思い。

今まであたり前だった「登校する」ということが、ものすごくハードルの高いことに感じ、どうしたらいいのか頭の中でぐるぐるとして、一日ずっと中そのことだけを考えていました。

絶望しかない中で、「夏休みまであと4日」という状況だけが、唯一の救い。
なのに、4日間が本当に長く感じ、恐怖でしかありません。

なんとか、そこまでもってほしいという思いで必死になり、「息子の心身を第一に考える」という冷静な判断はできずに過ごしていたことが、育児日記の中でもわかります。


2014年7月15日(火曜日)

火曜の朝。
寝起きは最悪。
なだめすかして居間までつれてきたが、本当に学校はどうなるか厳しい。
終始「疲れた」を連発するが、○○(オット)に起きてもらって、今朝も最後までごまかして、なんとか勢いで行かせてしまった。
かろうじて、かすかに笑顔を浮かべて手を振って出ていったが、本来の元気は全くない。

(中略)

学校の宿題も多い上に、明日の塾までにやらなくてはいけない基礎トレ3日分をどうやってやらせるかで途方にくれる。
○○を落ち着かせるために、一旦ゲームをやらせてしまったら全ておしまいということはわかっていても、「ゲームの前に勉強をやれ」というと爆発しそうな気配。
「ぜったい大丈夫だから!」と○○が主張するのでゲームを許すが、結局ゲームはやめられなくなる。

(中略)

怒らせないようにしながら、なんとか学校の宿題はつきっきりの状態でできたが、基礎トレは答えをそのまま写させる。
それでも結局泣き叫びだして、拒否反応が出るので、またゲームをやらせる。

お風呂のあとも、また泣き出したりして異常な状態が続く。
「明日は泣かないで起きようね」と約束して寝る。

日記の内容を見ていると、私はXデーで感じた恐怖を抱えながらも、とにかく息子の気分を壊さないように、まさに「腫れ物を触るように」対応しながら、それでも気分のすぐれない息子を手取り足取り手伝って、学校と塾に行かせることをまだ続けています。

私はなにもできなくなってきている息子に「学校休んだら?」「塾を休む?」とは聞いていました。
けれど、そうやって質問すれば、息子は絶対に「休まない!」と答えます。
「受験をやめる?」と聞いても「やめない!」と答えます。

その言葉だけを頼りに、私はまた息子をなんとか動かそうと必死になっていたのです。

挙げ句の果てに、こんなに苦しい状態の息子に、「泣かない」約束までさせているのですね。
本当にひどい毒親です。

夏休みまであと3日〜食欲の減退


2014年7月16日(水曜日)

昨晩の約束を覚えていたのか、この2日間と比べるとだいぶすんなり起きてくれた。
が、朝の食事もほとんどすすまず、暑そうにしながらイライラして元気がない。
何か声をかけるとかなりあぶない雰囲気。
今日も勢いで行かせるしかないので、○○(オット)に起きてもらい、弱々しく手を振って出て行く。

(中略)

下校後は比較的機嫌がよく、塾にはいつもと変わらずに出かけた。
ただ、帰宅後は、またお風呂に入らないというぐずりだし、大きく症状が出そうだったので、とにかく○○の気持ちが落ち着くのを待って、なだめながら入らせる。


もともとオットは出勤時間が遅いため、息子が小学校に行ってから起きる生活をしていました。

緊急事態であることを伝えて、この頃から、息子のために早く起きてもらうようになりましたが、「いつもは朝いないはずの父親が起きてくる」ということに対して、最初のうちは息子も少し気分をなおす要因にはなっていたと思います。

朝ごはんをなかなか食べないということも、幼稚園時代も含めて初めてのことでした。

食欲旺盛!というタイプではないのですが、朝ごはんを食べるスピードや食欲のことで悩んだことは、このときまでありませんでした。

食欲の減退も、子どもの心の状態を察知するための重要なバロメーターです。

夏休みまであと2日〜ため息をついてばかりの朝


2014年7月16日(水曜日)

寝起きから最悪の状態が続く。
起きてからもため息の連続で、「めざましテレビ」を流すことでかろうじて気分が持っているが、とてもじゃないけれど、このままずっとごまかせるわけがない。
最後は○○(オット)に起きてきてもらって、2人でいろいろと盛り上げながら、また無理やり行かせてしまった。
こんなこと続けていていいわけがない。
○○の体の具合が悪くなってしまうか、はっきりと行かないと言うか。
覚悟しないといけない。

(中略)

下校直後はいつもなぜだか元気が少し戻っていて、気分は落ち着いているように見える。
ギリギリの状態で登校しているけど、学校ではどうしているのだろう。

結局、家で過ごすうちにすぐに「疲れた」を連発して、朝と同じようにため息がたくさん出ている。
だるそうにしてイライラ感もすごい。

「朝の支度の時間にテレビをつける」というのも、Xデーのあとに気分よく登校させるために始めた習慣の一つです。

それまでは、息子がテレビに夢中になって、学校の支度が遅くなってしまうのを懸念して、FMラジオを流していました。

いままで見たことのなかった「めざましテレビ」を流すことで、最初のうちは、ほんの少しだけ息子の気分を軽くするのに役には立っていたと思いますが、根本的な解決にはなっていませんね。

それどころか、「めざましじゃんけん」に負けてしまって、気分を害してしまうこともあり、返って弊害になることもありました。

夏休みまであと1日〜中学受験塾に行った最後の日


2014年7月18日(金曜日)

毎朝抱き上げるようにして起こしているが、奇跡的に目覚ましで起きて自分で歩いてきてくれた。
まだ、少しそんな力も残っているのかと期待してしまうけど、結局朝ご飯を食べるスピードも極端に遅い。

だるそうにしながら全く着替えないので、赤ちゃんのように着替えをするのを全て手伝って、夏休み前最後の学校になんとか送り出す。

(中略)

今まで学校への拒否反応はあっても、塾に行く前は大丈夫だったのが、今日は初めて塾に行きたがらない様子を見せてイライラしていた。
○○くんが迎えに来てくれて、しかたなく出かけていったが、とうとう学校だけではなく、塾にも行きたくなくなっている。
というよりも、なにもやりたくないのだと思う。

(中略)

夜は、ふとした言動がきっかけで大泣きして、全ての行動を拒否する症状がでる。
この4日間、そうとうに無理をさせてしまったのかもしれない。

やはり、○○の状態は深刻すぎる。
本当にどうしたらいいのかわからない。

こうして、行き渋りが出てからの4日間、親が無理やりサポートして行かせることで、息子はなんとか学校と塾に通いきり、夏休みを迎えます。

夏休みが少しでも心身の調子がよくなる好機になればと、初日には心療内科も予約して、万全を期していたつもりでした。

けれど、結局、息子が中学受験塾に通ったのは「この日が最後」となります。

ハチコ

夏休みさえあれば、息子を思いきり休ませてあげることができる。
今の状況を全てを立て直す時間もできる。
夏休みの間に、息子が元通りにもどるかもしれない…

なんど絶望しても、なんども期待してしまう。
休ませなくてはいけないと頭でわかっていても、異常事態であることを把握していても、通塾にも中学受験にも未練がいっぱいのままだったハチコ。

息子がほんの一瞬でも元気な様子を見せると、
「もしかしたら、夏休み中に塾だけでも少しは通うことができるかもしれない」
「夏休みは無理でも、少し休ませれば、またすぐに元通り中学受験に向けて頑張れるにちがいない」
と、考えていたのです。

だから、息子はそんな母親に対して「とどめのSOS」を発信したのでしょう。

夏休みのはじまりと共に、3回目のXデーが近付いていました。

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